嗜欲の器展 Z

3月19日(金) 18:00 〜出品作家を囲んでの談話会をおこないます。

ぜひご参加ください。

アノニム − 匿名的な共通性 Part 1.

99.3/ 2 (火) − 10 (金)

笠原 由起子 (陶)

・畠山 耕治 (金属)

 

 

アノニム − 匿名的な共通性 Part 2.

99.3/12 (金) − 20 (土)

林辺 正子(ファイバー)

・マイケル ロジャース(ガラス) 

 

「嗜欲の器」Z 趣旨書

 

ー 個別性と匿名的な共通性 −

「嗜欲の器」展は、これまで〈素材〉や〈器物のフォルム〉をテーマにしてきました。それは芸術表現というものが、作者の内発的なイメージやヴィジョンだけによってだけではなく、外部にある何かから作者が受け取る影響からも生じてくると考えたからでした。何百年にも渡って使われてきた様々な素材、そしておそらく土器文化が誕生して以来つくり続けられてきた単純な壷や皿のフォルムに、作者は絶え間なく影響され、さらに、それらを独自に解釈してきたはずだと想像してみたのです。

あえて作者の内発性だけでなく、作者に影響を与えてくる外部の要素にも目をむけたのは、近代の工芸表現が「個別性」を求め続け、しかも、個別的である事を深めれば「普遍性」に通ずるという、脅迫観念にも似た思い込みを持ち続けてきたと見て取れるからです。個別性とか独創性(オリジナリティ)という近代文化の価値に、もう、しがみつかなくてもよいのではないでしょうか。そうした価値はすでに行き詰まっているように見える物です。

いま重要なことは、作者が個別的であろうとすることでも、個的な事実を極めることでもなく、個に閉じこもらないで、自分を取り巻く社会や環境全体にとって大切なことが何であるかを模索することではないでしょうか。そのために「嗜欲の器」展は、作者の外部にあって、作品に支配力を持つ要素に着目してきたのです。

そこで今回は、個的な表現を超えて、作品に社会的広がりのある意味を与えつづけているなにかを探すという視点から、「個別性と匿名的な共通性」というテーマを立ててみました。その匿名的な「共通性」がどのようなものであるかは、あえて特定しません。それが、これまで掲げられたきた〈素材〉や〈器物のフォルム〉であるだけでなく、無意識のうちに作品のフォルムに影響してきた〈装飾〉でも、暗黙のうちに自分を定めてきた〈血脈〉でも、〈制度〉でも、自分と物を関係づけている〈小さな物語〉であってもいいわけです。

今回の出品作家である畠山耕治さんは、器物のフォルムをぎりぎりまで単純化することによって、かえって鋳物の伝統的な素材感を見る人に思い出させてくれます。林辺正子さんは、自由な表現にとっては制約が多い機織りという制作技法をあえて用いることで、個的表現と伝統との関係を考えます。マイケルロジャースさんは、今日では身体がフェティシズムのように断片的に捉えられつつあることに着目し、全体としての身体という観念を取り戻そうとします。

(樋田 豊次郎)